またの冬が始まるよ


気持ちイイって、イケナイの?




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やっぱり暖冬だったのかと、
一月の後半のずっと、週末になると途轍もなく寒くなったのを盛り返すよに
そりゃあぐんぐんと気温が上がりまくり、
お天気もよくてのお出掛け日和となったものだから。
今日までこそ急ブレーキがかかってたような按配だったけど、
実はこの春も前倒しなのかなぁ、なんて
実に単純なことを思ってしまうような、
そんな長閑な週末となった昼下がりに。
立川の聖さんちへ届いたものが これ在りて。
いつのものかも定かではないくらい以前、
イエスが出した懸賞へのハガキが引き当てた、
それはふかふかな大判ブランケットとジャガイモのセット。
わあこれは暖かいとくるまって、
素直に喜んでいたイエスが、そのままお背
(おせな)へ貼りついたのへ、
微妙な反応を示したブッダだったりし。

 『もしかしてブッダ、
  ふかふかで気持ちいいのに屈しまいって頑張ってない?』

 『…っ。』

図星だったか、思わずのこと肩を跳ね上げてしまった如来様だったのへ、

 「気持ちいいことが好きだーって浮かれてる私を、
  子供みたいだなぁって思っただけなら、
  もっとこう、微笑ましいなっていう なごみ系のお顔になるはずでしょう?」

そういう相性はそれこそ天世界でもお馴染みのそれだったのだ、
当たり前の反応で違和感なぞ沸きはしないし、

 「そういうのって享楽的でよくないよと思ったなら、
  ちょっとそこへお座りなさいって持ってけるように、
  厳かなアルカイックスマイルになったはず。」

背中からくるみ込むように抱きこまれたまま、
耳元近くでそんな風に諭されて、

 「うう…。//////」

白い頬にほのかに緋色を滲ませつつ、
ブッダとしては二の句が継げずにいるばかり。
様子がおかしいなと素早く拾われ、
しかもその内情までもあっさりと見抜かれていることへ、
なんて底が浅いのだという自己嫌悪に襲われたものか。
身をすくめるように肩をすぼめてしまったブッダであり。

 “イエスの口から享楽的とか飛び出すと、
  日頃どれだけ子供扱いしてるかも思い知らされるんだよね…。”

生まれついての光の者、神の子であるイエスじゃあるが、
幼な子の内はそんなことなぞ知りもしないで、
普通一般の人の子として育っていたわけだし。
啓示を受けて以降にしても、
人をどう導くかということを 人世界にて学び、伝道していた彼なのだから。
どこか浮世離れしているというか、天然さんなところが強くとも、
人々に説法を傾けるべく、ちゃんと理知的な部分もお持ちだと、
ブッダだとて判っていたはずだけれども。
屈託のない笑顔に癒されているのと、

 “無邪気が過ぎて、先のことを考えない言動をするものだから。”

いろいろやらかすのへ巻き込まれているもんで…っていうのも
多少なりとも関係あるんでしょうねぇ。(苦笑)
まま、それはそれとして。
ブランケットの極上の肌触りへ、その心地の良さへ素直に和まずに、
それどころか、なし崩しに取り込まれまいと ついつい顔を覗かせた自制だったの、
あっさり見抜いたイエスの側としては、

 “ブッダってセレブもセレブ、
  王子様だったって出自が私とは真逆だものねぇ。”

世の中には苦しみがたくさん満ちていることへ、それは冷静に接した彼は、
物心つくまではそんなものから隔絶されていたわけで。
その素晴らしい相から 世界の王となるだろうと予言された跡取りを、
もう一方の予言にあった“優れた”にはするまいとした
父王の計らいのせいもあろうけど。
わざわざ意識して構えねば、困窮という立場にも縁遠かった身。
様々な苦行をこなしたのだって、
自分から飛び込まなければ
世にあふれる苦痛や苦悩を肌身では知らぬままだったからという
順番だったせいだとも言えて。

 「気持ちの良いことばかりを求めて
  結果、怠け者になっちゃう自堕落は確かにいけないことだけど、
  例えば、苦しい日々を送ってた人が
  慈愛の手に救われて“ああなんて気持ちのいい”と
  解放される幸いを味わうのはいいことでしょう?」

 「うん。」

頷く動作を懐ろに拾い、それでハタと気がついたものか、

 「…ごめん、これこそ釈迦に説法って奴だよね。」

いや、しゃれじゃあないからねと、
判ってぇと言いつのるよに 言葉よりも態度でと思ったか、
ぎゅうと抱き着いてきたイエスからの甘い拘束が、

 “わあ。/////”

何なになに、そんな風に迫ってこられちゃうと
私ついつい自衛で頑なになっちゃうったらと。
ブッダの側では、どこのヲトメですかというよな言い訳を、
胸の内でこそりとこぼしてしまったり。
そんなこととは露ほども気づかぬまま、

 「ブッダの場合、
  自分で自分を律しなきゃってわざわざ思うくらい、自分に厳しい人だものね。」

イエスとしては、
そこのところへ何かを感じ入ってしまったのらしく。
ちょっぴり焦れったそうに
その張本人様を柔らかく抱きしめ直すと、
切なそうな吐息を一つ。

 「他の人へは、
  どこまでも判ってあげられるほどに懐ろ深くてやさしい人なのにね。」

そうであるためにって、
そこまで厳しくいなきゃあ相殺できないものでもないだろに、と。
他でもない、そこのところが私には遣る瀬無いと言いたいらしいイエスなの、

 “うん。ちゃんと届いてるよ。”

骨格の差か、思いがけなくも深みのある懐ろへくるんとくるまれ、
堅い肉置きの胸元や頼もしい腕に、どこへもやらないよと掴まえられて。
大好きなワイルドオレンジの匂いを感じつつ、
訥々と説得されるなんて、

 “…なんか、なんか。///////”

言われている通り、
確かに依然として自分には厳しいです。
だって開祖だし、ウチはそういう教義でもあるし。
苦行が好きだとかマニアだとか言われるのは論外ですが、
そこのところも実はイエスったらようよう判ってくれていて。
自分の生涯の中では時間も体験も足りなくて
判らないままになってる辛さを、どこまで肌身に迫って理解できるか、
そうでなくては届かぬ想いがあるなんて歯がゆいからと、
天聖界でも修行は欠かさなかったし、ついつい戒めをきつくしていた感もある。

 「…微笑っていても親しい人にはあっさり見抜かれるくらい、
  嬉しいという幸いを遠ざけたり、素直に口にしなかった私は、
  可愛げがない偏屈者でしかないのでしょうね。」

それは素直に笑う、天真爛漫なキミが、
どれほどに人々の心を癒し支えているかを思えば、
自分がやっていることは、随分と不器用な、
しかも自己満足かもしれない、ずんと偏った構え方かもしれぬ。
そうという解釈も、実のところはそれこそしっかと把握してもいるところが、
浄土の真珠にして智慧の如来様たる由縁か。
とはいえ、

 「偏屈だったら、世のすべての人や動物や、
  神様たちまでもがキミへと惹きつけられたりしないでしょ?」

もうもうもうと、愛しい人を抱きしめて、
あらわになってたうなじへ頬をこしこしとするつけたりする神の子様なものだから、

 「〜〜〜っ。//////////」
 「あ・ごめん。」

ぱさりと軽やかに、あっさりほどけてしまった螺髪だったのへ、
よからぬ動揺させちゃったねと、そこは素直に謝ったところ。

 「   …ぷvv」

ブッダがたまらず苦笑をこぼす。
というのも、どこまで真面目なお話かと、
途中からお惚気というか口説きというか、
そんな方向へとお話のカラーが変わっていたことへ気づいたからで。

 「イエスったら、
  わたしを甘やかすためにという説法になってないかい?」

 「あー、そんな風に分析してたのぉ?」

意外と冷静じゃないのよと、
膝立ちになってたの、すとんと腰を下ろしてしまい、
もっとよくお顔が見えるようにか、
ブッダのお隣へお膝を進めて来、横合いから伴侶様を懐ろへと迎え直す神の子様で。

 「ブッダって、気真面目すぎて、貞淑な人妻っぽくて。
  それはそれで私としては大心配なところでもあるんだからね?」

由々しきことよと、それこそ真摯にお顔を引き締めたイエスだったれど、

 「いえす〜〜。/////」

ほんのちょっぴり沈みかかってた愛する如来様へ、
言うにコト欠いて何その比喩はと、
憤慨しつつも くすすという笑顔を取り戻させてやり。

 「え〜? だって、ブッダって
  清楚で真面目で、でも、まろやかな物腰してるからぁvv」

力持ちで凛々しい開祖様ってお顔、最近忘れてない?なんて、
そうと言いつつ、
その頼もしき教祖様を腕の中へと取り込ん
ふふーなんて笑っておいでのヨシュア様にしてみれば、

 “ああでも、
  キミにそんなにも嬉しいってお顔をさせることが出てくるのって、
  それはそれで癪だなぁ。”
  
私だってそうそう天真爛漫じゃあいられない。
焼きもちだって散々焼いてきましたと、
胸の内にて独り言ちてたりし。

 片や、

確かに“気持ちいい”という誘惑には、
苦行つきのものでなければ認めませんなんて
ややこしい格好で自然と見極められておいでのブッダ様。
ただ、

 “でも私、気持ちいいを肯定しちゃうと。”

その身を凭れさせること、
もはや自然なこととして馴染ませておいでの
愛しき伴侶様をこそりと見上げつつ、

 “歯止めがなくなってしまうとね。
  大好きなキミがこんなに傍に居る今なんて、
  何をどこまで求めてしまうか判らなくって…。////////”

夜陰の陰にてこそりと睦みあう時の
甘くて切ない刺激だってそう。
何かとこらえちゃいるけれど、

 “苦しいわけでも辛いわけでもないのにね。/////////”

勿論のこと、こらえることが快楽だなんて歪んだことは思っちゃいないし、
目くるめく情動は、もはや苦しいそれではなくなっていて。
強いて言うなら、優しいキミに気を回させてしまうのがちょっと悔しいくらい。

 「? なぁに?」

深瑠璃の双眸、やや潤ませて見つめる視線に気がついて、
小首を傾げて問いかける玻璃の瞳へ、

 「ううん。幸せだなぁって。////////」

嘘なんかじゃあない、本心を、
とろけそうな低さのお声で囁いた釈迦牟尼様。
ほどけてしまったつややかな髪ごと、柔らかな頬を胸元へこすりつければ、
ああ甘えてくれて嬉しいなと、
精悍なお顔をほころばせるヨシュア様だったけれど。

 ナイショの内緒、ホントはね?

ちょっぴり大人な戸惑いに、
されど慣れのないことと、含羞みが隠し切れなかったブッダ様だったというのが
ホントの真相だったようでございます。




   〜Fine〜  16.02.13.〜2.15.

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背景素材、お借りしました 槇冬虫様へ


 *理屈ばっかで甘くてとろける話が書けないこのごろなのへ
  他でもない自分で“ムキ〜ぃっ”となってます。
  そう、自制とか自戒とかが外れちゃったら、
  それこそキミがびっくりしちゃったりしないかなと、
  大人な悩みをこっそり抱えてなくもないブッダ様だったりして…。

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